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Re:Re:みちくさ

ゆるくいきてます

風をあつめて

名盤ドキュメントという番組で

はっぴいえんどの『風街ろまん』が取り上げられた

しかも はっぴいえんどのメンバーだった

松本隆さん 細野晴臣さん 鈴木茂さんらが

自らのアルバムを振り返って解説をするという

とんでもない奇跡みたいな番組だった

ここに大瀧詠一さんがいらしたら…と

思わずにはいられなかった…

あと一年半ほどこの番組の収録が早ければ…

 

 

はっぴいえんどのことを知ったのは

学生時代

一つ上の先輩が

「この人たちすごいよ YMOの人がいたんだよ」

と言って ダビングしてくれたカセットをくださった

 

 

尊敬する先輩が下さったカセットということで

わたしは帰宅後すぐさまカセットデッキにカセットを入れて

再生した

一曲目の「抱きしめたい」

最後まで聴いて まず驚いたことは

この曲の中のどこにも

タイトルである「抱きしめたい」というワードがなかったことだった

でも 「きみ」のことを「抱きしめたい」と思っている気持ちが

この歌詞の中にはちゃんとあって

最後に歌われる

「きみを燃やしてしまうかもしれません」

というフレーズに ハッとなった

何これ?! 

はい これでまず掴みはオッケー

ってなもんだった

 

2曲目の「空色のくれよん」

カントリー調の曲の上に

意味をつかむのがとっても難しい歌詞が乗っかるんだけれど

それが逆に心地よくて

それまで 音楽というものは「歌詞ありき」だと思っていたわたしに

新しい世界を見せてくれた

こんなに歌詞が邪魔にならず 音楽だけがスーッと入ってくるものも

この世には存在するんだなぁ と思ったことをよく覚えている

 

そして

わたしを完全に虜にしたのが

3曲目の「風をあつめて」だった

 

まず 静かなギターイントロから始まり

すぐさま細野さんの低い声が入ってくる

ここで 一気に歌詞へと意識が集中していくことになる

 

街のはずれの

背のびした路次を 散歩してたら

汚点だらけの 靄ごしに

起きぬけの露面電車が

海を渡るのが 見えたんです

それで ぼくも

風をあつめて 風をあつめて 風をあつめて 

蒼空を翔けたいんです

蒼空を

 

とても素敵な

昧爽どきを 通り抜けたら

伽藍とした 防波堤ごしに

緋色の帆を掲げた都市が

碇泊してるのが 見えたんです

それで ぼくも

風をあつめて 風をあつめて 風をあつめて

蒼空を翔けたいんです

蒼空を

 

人気のない

朝の珈琲屋で 暇をつぶしてたら

ひび割れた 玻瑠ごしに

摩天楼の衣擦れが

舗道をひたすのを見たんです

それで ぼくも

風をあつめて 風をあつめて 風をあつめて

蒼空を翔けたいんです

蒼空を

 

詩の世界観も 細野さんの声も 曲のメロディも

ギターの響きも 全てが完璧で

しばらくボーッとしてしまったことを

昨日のことみたいに思い出せる

日本語って 本当に美しいんだな… と

ぼんやりと思ったことも

 

四月の夕暮れだった

そして ほんの少し空腹だった

長袖のカットソー1枚では 少し肌寒いような

でも カーディガンを羽織るには もう暑苦しいような

曖昧なお天気だった

日中閉め切っていた部屋には

洗濯物の香りが漂っていて

濃いオレンジの光が窓から射していた

 

わたしは

空腹だったことも忘れて

何度も何度も「風をあつめて」を巻き戻しては聴いた

まるでとり憑かれたみたいに何度も

 

それほどに

この曲が想起させるイメージの広がりは果てしなくて

それを掴みたくて

でも 聴けば聴くほど 逃げていく気がして

自分の尻尾をずっと追いかけてくるくる回っている犬みたいに

何度も何度も聴いた

 

細野さんのハッキリした低音で流れてくる歌詞は

耳から入ってくる言葉の音で

しっかりと聴き取れたけれど

文字としてこの詩を読んでみると

「起きぬけの露面電車」が「海を渡」っていたり

「緋色の帆を掲げた都市が碇泊」していたり

「摩天楼の衣擦れが舗道をひたして」いたりするのだ

なんだろう 

なんなんだろう 

わたしは こんな光景を 生まれてこの方一度も観たことがない

観たことがないのに

どこまでもイメージだけが膨らんでいく

なんなんだろう この曲 この歌詞

どこにも方向が定まらない風船みたいな浮遊感

聴いても聴いても 正体がわからないこの感じ

 

一生のうち

あと何度 こんな魔法みたいな曲に出逢えるんだろう

聴いても聴いても 掴み切れなくて

狂ったように再生を繰り返してしまう魔法の曲に

 

 

このアルバムの5曲目に収録されている

「はいからはくち」についても

書き起こしたい所だけれど

ちょっと長くなりそうなので

本日はこれにて