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Re:Re:みちくさ

ゆるくいきてます

廃墟建築士 感想

 

廃墟建築士

廃墟建築士

 

 

読了です

このごろ積んどいたものを片っ端から読んでいます

まずこれは装丁に一目惚れをして購入してしまった本

実は図書館で一度借りて読んでいたのですが

どうしても手元に置きたくなるような装丁だったのでした


本作は 表題作の「廃墟建築士」の他三篇
「七階闘争」 「図書館」 「藏守」
からなる短編集

同氏の「となり町戦争」でもそうだったけれど
物語のとっかかりである視点が
非常に 非常に突飛で面白い


私たちが持っている「強固な普通」という目線を
やすやすと飛び越えて
三崎氏の作り出した小説世界が
もしかすると現実なのかもしれない と思わせられる
この文筆マジック

「七階闘争」が結構好きだった

マンションの七階でばかり事件が起きることで
七階を撤去することに決めた市と
七階の意義を熱く語り 七階と共に消え去った並川さん
最初は並川さんに引きずられるように
闘争に参加していた主人公は
並川さんが消滅してしまったことを機に
熱い七階闘士となっていく
その流れがね ごくごく自然だった
自分が当事者なればこそ
行動の軸が定まっていくのが人間というものだ
そこらへんの変遷をいつのまにかスーーーッと読ませられていた

すごいね

「廃墟建築士

空虚で無用 だけどそれこそが「実用」 
国家の文化的成熟度 機微 わびさび 
それがこの物語の中における「廃墟」の役割

人は廃墟に己の姿を重ねることで
朽ちていく定めである己が命を
受け入れられるのかもしれない

そうなのだとしたら 

始めから廃墟であることを目的とした建物を造る人間の心境は
どういうものなんだろうね?
新築だった建物が 時とともに風化していった結果
廃墟となっていくのは 時間の理であるけれど
はなっから廃墟作りを目的とすることに命を賭けられる人間というのは
言い換えれば はなっから死を見つめ続けている人と言えるのかもしれない
命を賭けながら廃墟を造ることのよっての 生きていることを実感できる
という ものすごい矛盾に満ちた中に存在しながらも
おそらく本人の中では全く矛盾しない出来事だったりするんだろうな
この三崎氏という方は

値観の転換というか

我々が普段無価値だと思っているものにスポットを当てるのが
とてもうまい人だなぁと思う


「図書館」

図書館の夜間開館に向けて
図書たちのトレーニングをする女性
というと なんだかおかしな感じに思うかもしれないが
図書館には野生というものが存在し
動物のように調教しないと
夜間開館は出来ない という設定なのであります

ああ なんて面白い視点なんだろう
なんだかむしょうに図書館に行きたくなってきます
本が 鳥のようにページをばたばた羽ばたかせて
調教された通りに飛んじゃうんですぜ?
ワクワクしませんか?
図書館の本には必ず分類がされていますけれども
その分類別ごとに本の飛び方が違ったりするんですよ?
すごくないですか?
この人の視点は本当におもしろい


「藏守」

蔵には意識があり
古来より連綿と受け継ぎながら
それを守り続ける人間がいる
物語は蔵と藏守の 二つの視点から語られ

やがてはそれらが一つになっていく
結局 蔵とは何なのか 藏守は何故存在しているのか
というのは明かされないんだけれど

こんな世界が この世のどこかに本当にありそうな
なんだか不思議な余韻が広がって行くような物語だったな



これからもこの方の発想を楽しみにしておりまする




短編集はちゃちゃっと読めるからよろしいです