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Re:Re:みちくさ

ゆるくいきてます

曼荼羅

 

折口信夫  (ちくま日本文学 25)

折口信夫 (ちくま日本文学 25)

 

 

忘れないうちに感想を書いておこうと思い立つ

 

著者の数々の作品が掲載されている中
死者の書』だけを読んだ
(のちほど全て読む予定)

ということで 『死者の書』の感想が頭の中に鮮やかなうちに
レビューを


まぁぁぁぁぁぁ 難解


ひとくちに言ってしまえば この言葉に尽きる

次々と変わって行く地の文が
一体誰で 何について語っているのかを掴むに一苦労してしまった

でも 途中で読むのを放棄することはしなかった
というよりも 出来なかったと言ったほうが正しいかもしれない

あまりの難解さに
ためしに声に出して読んでみた

そこで驚いたんだけれど

普通 音読などする時はいつも
小川を流れる小笹が石などに引っかかっては流れするような
音のつまづきが必ずどこかにある
が この作品を音読した時には一度もそういうことがなく
まるで最初からこの物語を知っていたかのように
言い淀まずにスラスラと読んでいた

さすがは日本の稀代の民俗学者の手によるものだなぁ

と あらためて感服してしまった


物語は
大津皇子が「した した した」と蘇ってくるところから始まる
ここからして完全にホラーw
どうやら彼は耳面刀自(みみものとじ)という女性を欲しているようである

藤原の斎姫として育てられた郎女が
ある日神隠しに遭い
(実際は自ら屋敷を出たのだが)
皇子の眠る墓近くの寺で
ぼんやりしている所を見咎められる
どうやらこの郎女が
皇子の欲する耳面刀自の御霊を宿した女性であることが
読み進めていくとなんとな~くわかってくる

全編が古語めいた言い回しになっているために
話の筋を追うのに精一杯で
頭の中に散らばる要素一つ一つを整理して繋げて行くことに
全ての力を使い果たしてしまった感じだったのだが
物語のラストにおいてようやく
「ああ!なるほど!」と思った

郎女は あるお寺でぼんやり歩いていた時に
我知らず 女人禁制の区域に入ってしまっていた
寺の僧都にそれを咎められ
事態を知った屋敷の人間が姫君を迎えにくるも

「すぐにお帰しする訳にはまいりません 

 女人禁制の地に入ってしまわれたのですから

 姫君にはしかるべき期間物忌みをしていただいたのちに

 お帰りいただくことになります!」

と言われ

姫君とその乳母たちは 寺に仮の居を構えて住まうことになる
そこで 蓮の茎からとった糸をしつらえて機で織る

という仕事を考え出した若人たちのしている様を

姫は日がな一日じっと見ていたりする


そんな中 夜な夜な自分のもとにやってくる
得体の知れぬ何者か(大津皇子その人であるのだけれども)が
とても寒そうに肌を晒しているのを見て 気の毒に思った姫は
自分の手で糸を繰り 機を織ることを思いつく
そうして何日もかけて布を織り上げ
そこに都から持ってこさせた絵の具で丁寧に彩りを加え
あの寒そうな皇子を一刻も早く温めてあげたいという 

ただその一心で
完成させた着物の絵は
まるで光輝くような曼荼羅であった と


ほぉ~

なんかね 今まで散らばっていたものがね
姫の織る機が出来上がっていくにつれてね
わたしの頭の中でも曼荼羅のような絵を作り上げていくような感じがいたしましたよ

 

おそらく 皇子は完全に癒されたんだろうなぁと思う

その後の皇子のことは全く語られておらず

郎女が織った物が曼荼羅であった という所で

お話が終わっていたから

この時点で皇子の御霊は 天高くにある美しく光輝く金色の伽藍へと

昇っていったのではないのかな?

それを思ったら こちらもなんだか

「スーーーーッ」としてきて

こういう気分のことを カタルシスっていうんだろうなぁ

と思わせてもらえた一冊だった

 

 

最近は 一度読んだ本を再び手に取るようなことは

滅多にしなくなってしまったけれど

この本は また何度も読み返したくなる本になってしまった

歴史や伝承などをもっとよく知った上で読んだら

語り部としての折口信夫さんの才能をもっともっと感じることが出来る気がする

いやぁ ほんと この人はすごい

詩はお書きになるし エッセイも評論も さらに このように小説までお書きになる

やりたいことを全部紙の上でやっちゃっている

うらやましい限りの才能だ…

心から尊敬しております